メダリオン

 

メダリオン (東欧の想像力)

メダリオン (東欧の想像力)

 

ホロコーストに、直接間接に関連した人々の証言を元にした短編集。人々の証言とそれを語る様子を、誇張しすぎないように慎重に描く著者の筆致は、かえってその言葉のリアリティを強め、起きた出来事のあまりのおぞましさを伝えてくる。小説部分だけなら100Pを切るのだが、これ以上あってもつらくて読めなかったと思う。それほどにきつい。

執筆されたのは、1945年。戦争の終結とともに、ナチス犯罪調査委員会に属していた著者が、いち早く人々へと届けようとした。もっと感情的になってもおかしくない立場と時期に、これほど冷静に書かれていることに驚かされる。

本書で特に印象的だったのは、ワルシャワ蜂起を扱った「墓場の女」。蜂起が起きたゲットーの壁の向こう側にいた人間が間接的に見てしまった光景。人々が苦しみから逃れるため身投げを企て、悲鳴が次々に聞こえてくる。戦火の直接の被害者でなくとも、苦しみは訪れる。こうした戦争の苦しみをホロコーストとは別の角度でも受け続けた土地として、ポーランドではいくつもの小説がこれ以後にも書かれる。スタニスワフ・レム「主の変容病院」(1955, 執筆は1948) は、戦時中の精神病院でのじわじわと侵略が広がっていく様が描かれるし(この長編が収録された『主の変容病院・挑発』には、「ジェノサイド」という架空の書籍の書評という形で、ホロコーストについて触れる作品も収録されている)、オルガ・トカルチュク『プラヴィエクとそのほかの時代』(1996) では、架空の土地プラヴィエクの一世紀ほどの歴史が描かれる中で、ドイツの侵攻により土地には線が引かれ、その区別が重要な意味を果たすことになる。

1945年という戦争がまさに終わった年の時点で、あのジェノサイドが邪悪な人の意思で行われたものであることを認めた上で、それをなさせるに至ったシステムの存在を示唆していることは驚嘆に値する。

人間がこうしたことをできたことに疑いはないが、やらねばならなかったわけではない。しかし、その力を彼らから引き出し、作動させるためのすべてがあらかじめなされていた。その力は人間の意識下でまどろみ、起こされることも表に出ることもなくいれたはずなのに。

p.97 「アウシュヴィッツの大人たちと子供たち」

 本書は八編の短編が収められているが、うち七編は独立した短編として読める。短編集の最後に配置された「アウシュヴィッツの大人たちと子供たち」のみが全体を総括するような内容になっており、先のような記述が現れることになる。この中で、エピグラフに掲げられた文章も登場するが、本書を通読したあとで見るその文章はあまりに重く感じられるだろう。

人間が人間にこの運命を用意した

p.3