天の声・枯草熱

 

長編「天の声」と「枯草熱」の二編がカップリングされ、一冊になった本。文学系の全集でたまにありますが、読み通すのがきついですね長編カップリング本。サンリオSF文庫から出版されており、現在では入手難な二冊の改訳合本です。表紙は『闇の国々』から。内容と関係あるかと思ってたんですけど、特にないですね。強いて言うなら「天の声」のイメージカットとして見れなくもないという感じ。

以下ではネタバレありありです。なしで語るのが難しいので。

天の声

ニュートリノの計測記録には宇宙からのメッセージが含まれている。山師が出しにしようとしていた情報から、本当にメッセージらしきものが浮かび上がり、2500人の科学者がネバダの砂漠に集められ、メッセージの解読に乗り出す。往時の出来事として、語り手の数学者ホガースによって、そのメッセージ解読への顛末と見つかった物事が語られる。

ここで面白いのは、メッセージが単なるメッセージではないところ。そのニュートリノ放射線は、パターンがメッセージになっているだけではなく、生命の発生を促進する効果があることも明らかになります。ファーストコンタクトものでも、珍しいパターン。それゆえにメッセージが単なるメッセージなのか、悩むことになります。メッセージを解読し、生成できた物質と物理現象により、絶滅兵器の存在が示唆される後半が個人的にはハイライト。冷戦時期に書かれたためか、レム自身、興味のあったテーマなのか、ホロコーストから辛々生き延びた教授のエピソードとともに印象的です。

結局のところ、人類はメッセージの大部分を解き明かすことはできないのですが、そこでのメッセージ解読の不可能性についての議論や、最後に提示される自然現象として回収しうる可能性の提示などは、まさにレムといった趣。語り手の最終的な結論として、異質な知性の存在を諦めない点はある意味オプティミスティックでちょっと面白い。ファーストコンタクト三部作と共通したテーマを扱っているが、科学者たちの結論の提示が中心なため、『ソラリス』のような膨らみには少しかける。十分に議論が刺激的で面白いので、これを最高傑作とあげる人がいるの自体は納得できる。個人的には『ソラリス』の方が上。でも、レムの中でも上位の傑作。ただし、中盤まで周辺的な状況が述べられ、かなり退屈。大衆をバリバリに見下している描写とかは面白いですが、それにしても。

枯草熱

今の言葉で言うと「花粉症」。なんとも情けないタイトル。最初の翻訳当時には「花粉症」だと通じないからこのタイトルになったと解説にある。そんな時代を返してほしい…。そろそろ目が痒くなる時期だ…。

元宇宙飛行士の男が、ナポリ-ローマ-パリと移動していく。誰かに追われているかのようで、偏執狂的な警戒をしているが、一体何が起きているのか。わからないまま50pほど読むとパリで犯罪調査に協力している情報博士の元に赴く。そして、男は博士にナポリを起点として発生した奇妙な事件たちを紹介していく。

『捜査』にも通じるナンセンスミステリ。結論がつかないし、わりとかったるい『捜査』に比べると一応の結末と中盤のおもしろ死に様祭りがあるこちらの方が面白いか。ハゲ薬が絡むナンセンスなオチも愉快。

沼野先生は解説で今こそ読むレムとぶち上げてますが、そこまでとは言わんでも、レムの良作として今でも読まれて良い作品集。