SFマガジン2020年8月号

 

SFマガジン 2020年 08 月号

SFマガジン 2020年 08 月号

  • 発売日: 2020/06/25
  • メディア: 雑誌
 

小説がたくさん載ってるのは良いことですね。読み終えるのに時間かかったので、読了が今更になりましたが。

読んだ小説について感想を。津久井五月「牛の王」は冒頭先行掲載なので読んでないです。ぱっと見、面白そうなので出たら読むはず。長谷敏司「怠惰の大罪」みたいに刊行がいつになるかわからなくなるケースもあるので…。春暮康一「ピグマリオン」は後編掲載号の読書メーターに感想を残しました。

親しくすれ違うための三つ目の方法 高木ケイ

ノンフィクションライターを目指す大学生が、エイリアンをテーマに調査をはじめるが…。というプロットに、彼自身の出自の秘密、取材で知り合った女性との関係が重ねられる青春小説。この手の話でありがちなエイリアンの存在は、いるかいないか確定させない、みたいな書きぶりではなく、「いる」方に振っている思い切りの良さに気持ち良く裏切られた。そんくらいやらないとね。あくまで日常の範囲で印象的な場面を作っていて、青春小説らしさを失わないところも良い。若干、視点がブレブレして読みにくいこと以外は非常に良かった。

それでもわたしは永遠に働きたい 麦原遼

今回のベストでは。AIがまさに仕事を奪い、人間はフィットネスクラブで体を絞っている間に、脳の処理能力を貸して、物理的に存在するアバターを動かすことが労働(=朗働)となった未来が舞台。もうこの設定が労働の未来を、本人にとってはある意味楽園としてディストピア化した姿として秀逸。労働していると不健康になる=労働中に運動すればいい、というのは在宅ワーク中だと余計に味わい深い。その世界観で労働中毒となった語り手が完全に狂っており、10時間と定められている労働時間を法の網目を縫って、20時間している。当然、エスカレーションして24時間働き始め、それこそが素晴らしいという狂人で、物語は思ってもないところまでエスカレートする。オチが多分あれ集合無意識だと思うんだけど、そのオチはちょっとなあというところ以外は素晴らしかった。

花ざかりの方程式 大滝瓶太

個人的な趣味で言えば一番好き。円城塔っぽい方程式や少年と少女という要素ではあるのだけど、円城塔よりもなんていうか生々しいところや叙情的すぎるところがあって、結構雰囲気が違う。理解することで咲き誇る花が見える方程式、というネタに始まり、その考案者の人生、その理論と関係者にインスパイアされた言語学者の息子と娘の物語が絡まっていく。重要なテーマは、彼岸と此岸とその中間の死圏に代表される1と0とその間の世界。複数の架空理論や場面が出てくるが、一貫しているのはその間は定まっていないということ。言語学者のあったはずの恋と人生、そして生まれなかった子供達は、間の世界で生まれ、存在する。めちゃくちゃロマンチックな話。

また春が来る 草野原々

原々にしてはむしろ素直なメタフィクション作品。なんか妙な熱量というかのめり込み方みたいなのを感じるのが原々節と感じた。

おくみと足軽 三方行成

大名が文字通り巨大な機械である江戸時代を舞台とした軽快な物語。ライトすぎるきらいはあるが、可愛くて良かった。

Executing Init and Fini 樋口恭介

円城塔っぽい語り口で語られる宙での少年と少女の繰り返される出会い。プログラミングの言葉で、ジーン・ウルフ「デス博士その他の物語」を語り直したような物語。

クーリエ 劉慈欣

名前の入力がめんどくさいからコピペするとフォントサイズが…。話の雰囲気はいいし、小説はうまいが、まあ古い。大オチがこのバイオリン弾きは誰なのか、ということだが、かなり親切に書いてあるのでわかる人には最初のページでわかるようになっている。わかっちゃダメじゃない?