ミステリマガジン2021年5月号
6ヶ月ぶりでした。疲れてたり、書きたい本があんまりなかったりで空いちゃいましたね。あとウマやってました。
特殊設定ミステリ特集号です。特殊設定ミステリというか、ミステリジャンルの作品であるがゆえに、いびつさを含んだ作品が好きなんですよ。ミステリの必要条件である謎解きがあり、それに合理的な解決が付いていれば、世界観や状況がどれほどめちゃくちゃでもいい、みたいな話が好きなんですね。百鬼夜行シリーズとか『黒死館殺人事件』とか。そういう意味でこの特集号はなかなか良かったです。ミステリというジャンルの懐深さを感じますね。
お迎え 辻真先
死が近くなるとその人にとって大切な人が視界に映るようになる現象「お迎え」とそれを使ったミステリ。小品ながらギミックを使ってすっきりまとまった一品。
ウィンチェスター・マーダー・ミステリー・ハウスの殺人 斜線堂有紀
ウィンチェスター・ミステリー・ハウスが徐々に拡大を続け、北米を覆い、太平洋にまで進出している世界。ハウスの探検を続けるパーティーのうち一人が死亡した。はたまた殺人か、事故か。数分に一度部屋が増殖し、その増殖に巻き込まれると轢断されてしまうという設定からして愉快。太平洋ひいては地球を覆うペースで巨大化しているハウスという設定が奇想短篇のよう。その謎は残念ながら解かれませんが、世界観に即したきちんとした謎解きが待っています。数作しか読んでませんが、斜線堂作品は情の作風だと思っているので、その美点が活かされた一品。一読の価値あり。
複製人間は檻のなか 阿津川辰海
同日に死んだ二人のミステリ作家。その死の真実が、犯人と目された男と探偵によって明かされていく。クローン人間や記憶転移といったオーバーテクノロジーが、さも当たり前のように出てくるところが、特殊設定ミステリらしさか。そういうの好きです。そう長くない短編ながら、この特殊な設定を活かして、二転三転するミステリを作り上げているのは見事。
スワンプマンは二度死ぬ 紺野天龍
思考実験のスワンプマンをベースにしたミステリ。スワンプマンが実際に現れたら、というだけではなく、そこからもう一捻りされている。作中人物が作中論理に殺される趣もあり、その理不尽さがミステリという感触がします。
エリア3 清水杜氏彦
謎の生物が飼われている施設では、3以上の同じものを見つめると死に至る。まさに特殊設定。こちらは唯一殺人事件ではなく、死を回避するためにどういった行為をとったかという心理サスペンスになっています。なんかシリーズ物らしいんですが、他もこんな感じなんですかね。
総じて、なかなか凝った設定の作品が多く、特に斜線堂、阿津川作品が良かったように思います。何篇か追加して書籍化してくれると嬉しいですね。