時の子供たち

 

かなり久しぶりになってしまった。なんのことはなく仕事が忙しかったりしただけです。

宇宙開拓を進めた人類でしたが内乱で瓦解。残されたのは環境が崩壊した地球と星間移民を目指した探査船のみ。その船の一つでは乗組員は残らず、船長だけが生き延び、テラフォーミングを仕掛けましたが、猿たちを成長させるつもりが、実際にナノマシンによって知性を得たのは蜘蛛たちでした。蜘蛛たちは、徐々に知性をつけていき、彼らにメッセージを送る衛星を〈使徒〉と崇める文明を作るに至る。というのが一つ目の筋。

もう一つの筋は、残された環境崩壊した地球で生き延びた人々は、残されたテクノロジーを使って、星間移民を目指します。その過程で、蜘蛛たちの星に近づくが、そこではテラフォーミングを仕掛けた船長が狂気に陥っており、彼ら人類の祖先を受け入れてはくれなかった。その駆け引きとその後を描く。

この二本の筋が細かい章立てで交互に語られ、「戦争」や「啓発」と題された全八部で構成されます。各部では、蜘蛛たちと人類たちがそれぞれに題された「戦争」などのシチュエーションに置かれます。なので、読み味としては長編でありながら、短編連作といった味わいもあり、特に蜘蛛たちは代替わりしていくので、各部ごとに異なる話になっていて、そこが面白味になっています。ざっと挙げるだけでも、ファーストコンタクト、疫病との戦い、宇宙開拓とSFのジャンルを総ざらいするような感じで、ハイペリオンのことが思い出されます(テイストはかなり違うんですが)。

SFを読み慣れた人にとっても、人類パートのコールドスリープから度々起こされて、時間感覚が混乱していく、実際に親しい人々と過ごす時間がずれていく部分など、濃厚な時間ものとしての面白味がありますし、蜘蛛たちの蟻を使った生体コンピュータなどを作り上げていく文明など見所も多いです。

この作品のちょっと面白い、あるいは奇妙なところとしては、蜘蛛たちの文明を人類と裏返した強烈な女性中心主義社会として描いている点。雌が交尾後に雄を食べる種として自然な流れとして、女性中心主義的になるところから、人類の男性中心主義からの変化をなぞるような形で、作品中では男性解放論者の雄が登場することで社会の変革を目指すパートもあります。蜘蛛社会として、人類とはまるきり異なる社会を描いてほしい向きには、ちょっと不満かもしれませんが、その辺は蜘蛛たちの科学技術やコミュニケーション手段といった部分はみっちり書かれているので、そちらで満足できるかと思います。あとあまりに異質な社会を、しかも全体の約半分を占めるパートで書かれると読む側はかなり大変なので(好きな人もいると思いますが)。このパートで面白かったのは、蜘蛛社会の中では聡明な権力者である雌が、能力を示された上でも雄の価値を、本能とこれまで築き上げた伝統ゆえに認められない、という部分で、旧来の伝統を壊す難しさと葛藤がきちんと描かれている点で、表層的な話になっていない点は良かったと思います。

物語は、蜘蛛たちの文明の成長と人類たちの苦闘が並列され、もちろん最後に交わります。結末もあれやこれやが想起されながら、独自のビジョンを見せるもので、上下巻の長さを読んできた甲斐がちゃんと感じられます。かなりおすすめ。