死者だけが血を流す/淋しがりやのキング 日本ハードボイルド全集1

 

1965年刊行の長編「死者だけが血を流す」と著者の同時期の短編六篇をまとめた作品集。日本ハードボイルド全集として刊行される七冊の一冊目。

ハードボイルドというジャンルは好きなのだけど、たまにしか読んでいないので、特に国内ともなると高城高の短編を一部読んでいるくらい。どんなもんだろというところでしたが、とても楽しく読めました。叢書の続きも購入しようと思いました。

死者だけが血を流す 

北陸の国政選挙を舞台として、政治家とヤクザの思惑が絡んだ事件の真相を求めて、元ヤクザの政治家秘書が走る。半世紀以上前の作品だが、政治の腐敗ぶりは現代を思わせるところがあり、進歩がねえなあと悲しい気持ちになる。それだけエッセンスがよくかけているということでもあり、それほど派手な事件が立て続けに起きるわけではないのだが、哀感の溢れた筆致がとても読ませる。人死にや事件ではなく、スタイルこそがハードボイルドを規定するのではと思わされる。男女関係に少し古さはあるが、現代でも読むに耐える傑作。

チャイナタウン・ブルース、淋しがりやのキング

著者の第一長編と同一の主人公の短編、二作。どちらもシップ・チャンドラーの主人公が、港の国と人々の軋轢が産まれる場での事件に接する。苦い事件と渋い語り口はまさにハードボイルド。特に表題にもなっている「淋しがりやのキング」が絶品。

甘い汁

山師と実業家のやり取りを描く作品。ウェルメイドな一品。

血が足りない

銃を密造できる青年が、愚連隊とヤクザの争いに巻き込まれて破滅する顛末を描く。自分の子かもしれない三歳児を養う彼が、その子を思う気持ちに胸を締め付けられる。分かりきった破滅に突き進むだけの話ではあるのだが、そのシチュエーションのつらさが心に残る。

夜も昼も

歌手の女とそのマネージャーの男の物語。現代で読むには少しアナクロすぎるかも。もう一捻りあるかと思ったら、そうでもなく終わったので逆に驚いた。

浪漫渡世

著者が早川書房に勤めていた際に、EQMMを創刊する時期の顛末をベースにした半自伝的小説。編集長の葉村は、都筑道夫をモチーフにしているので良さそう。この叢書の次の刊行が都筑道夫なので、次回配本へ続くといったところか。この描写通りなら、当時の早川はなんとまあひどい会社であることか。

解説などは、著者のハードボイルドへの向かい合い方について記されていて、著者の全貌に迫るようなものではない。もう少し初心者向けの概説が読みたかった気もする。